5フォース分析:業界の競争環境を読み解く
更新日:10月14日
今回は「5フォース分析」について詳しく解説いたします。
5フォース分析は、マイケル・ポーター教授が提唱したフレームワークで、業界の競争環境を理解し、戦略を立てるための強力なツールです。
この分析を通じて、企業が直面する外部環境の脅威と機会を明確にし、競争優位を築くための戦略を策定する手助けとなります。
〈目次〉
5フォース分析とは
5フォース分析は、以下の5つの競争要因から業界の構造を分析します。
1. 新規参入者の脅威
2. 既存競争企業間の敵対関係
3. 代替品の脅威
4. 買い手の交渉力
5. 供給者の交渉力
※5つの競争要因のイメージ
これらの要因を個別に分析することで、業界の競争環境を総合的に理解することができます。
1. 新規参入者の脅威
新規参入者が業界に参入することで、既存企業の市場シェアが奪われる可能性があります。
新規参入者の脅威を評価する際には、以下の点を考慮します。
- 参入障壁の高さ
特許やブランド力、規模の経済などが高い場合、新規参入は困難です。
- 資本の必要性
初期投資が大きい業界では、新規参入者は少なくなります。
- 規制や法的制約
政府の規制が厳しい業界では、新規参入が制限されます。
例えば、製薬業界では特許や規制が厳しく、新規参入者の脅威は低いと言えます。
2. 既存競争企業間の敵対関係
業界内の競争が激しい場合、価格競争やマーケティング費用の増加が生じ、利益率が低下します。
競争の激しさを評価するためには、以下の点を考慮します。
- 競争企業の数と規模
多くの企業が存在し、規模が均等である場合、競争は激化します。
- 市場成長率
市場が成熟している場合、シェア争いが激化します。
- 製品の差別化
製品やサービスが差別化されていない場合、価格競争が起こりやすいです。
例えば、スマートフォン市場では多くの企業が競争しており、価格競争が激化しています。
3. 代替品の脅威
代替品が存在する場合、顧客が他の製品やサービスに乗り換える可能性があります。
代替品の脅威を評価するためには、以下の点を考慮します。
- 代替品の性能と価格
代替品が同等の性能を持ち、価格が安い場合、脅威は高まります。
- 代替品の利用の容易さ
代替品が簡単に利用できる場合、顧客は乗り換えやすくなります。
例えば、伝統的なタクシー業界に対するライドシェアサービス(Uberなど)の脅威は非常に高いです。
4. 買い手の交渉力
買い手の交渉力が強い場合、価格引き下げや品質向上の要求が強まり、企業の利益率が低下します。
買い手の交渉力を評価するためには、以下の点を考慮します。
- 買い手の集中度
少数の大口顧客が存在する場合、交渉力は強まります。
- 買い手の情報量
買い手が市場情報に精通している場合、交渉力は強まります。
- 代替供給源の存在
複数の供給源が存在する場合、買い手の交渉力は強まります。
例えば、自動車メーカーに対する部品供給業者の交渉力は低いですが、大手小売業者に対する食品メーカーの交渉力は高いです。
5. 供給者の交渉力
供給者の交渉力が強い場合、原材料や部品の価格が上昇し、企業のコストが増加します。
供給者の交渉力を評価するためには、以下の点を考慮します。
- 供給者の集中度
少数の供給者が市場を支配している場合、交渉力は強まります。
- 供給者の差別化
供給者が独自の製品やサービスを提供している場合、交渉力は強まります。
- 代替供給源の存在
代替供給源が少ない場合、供給者の交渉力は強まります。
例えば、希少金属を供給する企業の交渉力は非常に高いです。
5フォース分析の実践的ポイント
1. 業界の定義を明確に
分析対象の業界範囲を適切に設定することが重要です。
2. 定性的情報と定量的データの併用
市場調査レポートや財務データなどの客観的情報を活用しましょう。
3. 複数の視点からの分析
社内の異なる部門や外部専門家の意見を取り入れ、多角的な分析を心がけます。
4. 動的な視点の導入
技術革新やレギュレーションの変化など、業界構造を変える可能性のある要因に注目します。
5. 戦略への落とし込み
分析結果を具体的な戦略アクションに結びつけることが重要です。
6.クロス分析の活用
SWOT分析と組み合わせることで、外部環境(機会と脅威)と内部環境(強みと弱み)を統合的に分析できます。
5フォース分析例
日本の中小製造業が取引先に価格転嫁できない理由を、5フォース分析から読み取ると、
1. 新規参入者の脅威
日本の中小製造業は、特に技術や資本の参入障壁が低い分野では、新規参入者の脅威に直面しやすいといえます。
海外の低コスト製造業者の参入や、大手企業の内製化などの脅威があると、中小製造業は価格競争力を維持するために価格転嫁を控える傾向があります。
2. 既存競争企業間の敵対関係
国内市場の成熟化に伴い、競争が激化し、企業は価格競争に巻き込まれています。
このような環境では、企業は利益を確保するためにコスト削減を余儀なくされ、結果として価格転嫁が困難になります。
3. 代替品の脅威
日本の中小製造業は、特に汎用性の高い製品を製造している場合、代替品の脅威にさらされやすいです
例えば、3Dプリンティング技術の進歩により、一部の製造プロセスが代替される可能性があります。
4. 買い手の交渉力
日本の中小製造業は、大手企業や強力な購買力を持つ取引先に依存していることが多く、これが価格交渉力を弱める要因となります。
大手企業は大量購入を行うため、価格引き下げの圧力をかけやすいといえます。
5. 供給者の交渉力
供給者の交渉力が強い場合、中小製造業は原材料や部品のコスト上昇を吸収する必要があり、これが価格転嫁を難しくします。
日本の中小製造業は、特定の供給者に依存していることが多く、供給者の価格設定に対して弱い立場にあります。
まとめ
5フォース分析は、業界の競争環境を総合的に理解するための強力なツールです。
新規参入者の脅威、既存競争企業間の敵対関係、代替品の脅威、買い手の交渉力、供給者の交渉力の5つの要因を分析することで、企業は自社の競争優位を築くための戦略を策定することができます。
経営者の皆様には、この分析を活用して、自社の強みを最大限に活かし、競争環境に適応するための戦略を立てていただきたいと思います。
5フォース分析を通じて、業界の動向を把握し、持続可能な成長を実現するための一助となれば幸いです。
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本書は、マイケル・ポーターの競争戦略論のエッセンスを分かりやすく解説している。
著者はポーターと長年仕事を共にした経験を活かし、競争優位、バリューチェーン、トレードオフ、適合性などの重要概念を簡潔に説明している。
ポーターの主張する「最高を目指す競争」ではなく「独自性を目指す競争」の重要性や、「五つの競争要因」フレームワークの活用法など、実践的な戦略立案のヒントが得られる一冊となっている。
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